「歌舞伎に行く」というと、どうしても、テレビ等で見る、あの独特な言い回しや三味線に合わせた、奇妙なバックコーラスが、連想されて、二の足を踏みそうになります。
ところが、歌舞伎は、そんなに難しく考えるものでもないのです。
もともと、江戸時代に、ごくごく普通の庶民が、年に一、二度の最高の娯楽として、ご馳走をつめた重箱を下げて、近所同士誘い合って、見物に出かけていたのが、もともとの歌舞伎なのです。
そして、舞台の歌舞伎を見ながら、飲み食いを楽しんでいました。
だから、難しく考えずに、気楽に出かけて、まずは、歌舞伎の世界に触れてみることが、大切です。
ちなみに、イケメンを表す「二枚目」「三枚目」というも表現も、語源は歌舞伎からきた言葉が示しているように、庶民の生活の中に根を下ろした文化でもあります。
今回は、歌舞伎を楽しむための歌舞伎についての基礎知識について紹介します!
歌舞伎を感覚的に全体として見る
歌舞伎という演劇文化は、江戸時代の文化だという基礎知識をもっておくことが、前提となります。
当然、言葉も違えば、生活様式や価値観、文化など、今とは、ずいぶん違います。
そこで、演目の内容をしっかり理解しようなどと堅く考えずに、登場人物の衣装の美しさや回り舞台、せりなどの舞台装置の面白さ、見事な早替わりの妙技などを、
感じるがままに感覚的に楽しむことの方が大事です。
大まかな歌舞伎の背景を理解して見る
歌舞伎について、大まかに理解しておくとさらに楽しく見ることができます。
歌舞伎の演目は、ざっくりと、時代物と世話物の二つに大別されます。
基本的に、江戸以前の室町、鎌倉あたりの合戦の様子や出来事、武士の生き方や価値観など、武士の世界を題材に取り上げ、それを江戸時代の価値観や文化に合うようデフォルメされた形で演じられます。
江戸時代の街社会や風俗、くらし、出来事などを題材に演じられ、商人や庶民、遊女といった、ごくごく一般の人々が登場しますので、粗筋も現代と極端には変わらず、とても意味の分かりやすい演目も、多くあります。それで、別の角度から見れば、最初に観るには、最適な演目でもあります。
また、登場人物の性格も、歌舞伎特有のメイク方法である隈取りの色で、区別されています。赤系統は、正義の人物を表し、敵や悪役は、反対の青系統、鬼や妖怪は、茶系統と、見た目で、はっきりと判別できるよう工夫されています。
なお、劇場の入り口付近で、イヤホーンガイドを貸し出していますので、料金はかかりますが、借りておくと、舞台の進行に応じ、適宜、役者のセリフを邪魔しないよう、絶妙のタイミングで解説してくれますので、歌舞伎を数倍楽しむことができます。返却時に、保証金は返金になりますので、解説内容から見ても、お得です。
歌舞伎特有の演出を楽しむ
舞台と客席とを近づける、歌舞伎ならではの舞台づくりや所作がありますので、それを観るのも、歌舞伎見物の楽しみになります。
座席の間を突き抜ける「花道」と言われる、歌舞伎独特の舞台があります。
主要な人物が登場するときや舞台を去る時に、使われます。チケットを購入する際に、花道横の席を購入すると、ごく間近で役者の表情や息づかいを見ることができます。
この花道では、現代のストップモーションにあたる、歌舞伎独特の役者の見せ所「みえ」を切ったり、独特の足運び「六方」で、花道を去ったりする演技が見られます。
「みえ」は、看板役者の晴れ舞台で、手足を伸び切らせた大きな動作で、目をむき出し、誰でも知っている有名なセリフを言うと同時に、大向こうから「よっ、◯◯屋。」というかけ声が、タイミング良くかかる、歌舞伎一番の見せ所となります。
この他にも、早替わりや瞬間的な場所の移動、「せり」や「スッポン」を使った様々な演出が、大がかりな「回り舞台」を始めとして、様々に工夫されています。
「けれん」や「宙乗り」といったものも全て、舞台を盛り上げるための演出です。宙乗りを、お家芸として、伝統を守り続けている市川猿之助のような歌舞伎役者もいます。
まとめ
歌舞伎を見ると決まったら、その日は「ハレの日」です。
着物を着付けるまではしなくても大丈夫ですが、少しだけおしゃれをして、劇場へ徒歩よりタクシーの乗り付けで行きましょう。
公演の間に、30分の長い休みがありますので、座席に座る前に、劇場内のお店をまわって、席の予約をしておきます。休憩に入ってからでは、まず、席はありません。
かといって、席が空くのを待っていたら、30分の休憩時間は、終わってしまいます。入場前に席を確保しておくことで、予約席にゆったりと座り、ビールの一本も飲んで、見た目もきれいで、美味しい、これが語源の「幕の内弁当」に舌鼓を打ちたいものです。