新しくなった歌舞伎座。市川海老蔵さんやラブリン・坂東玉三郎さんなど、バラエティ番組に出演されている有名人も多いため、親近感を覚えている方も多いのではないでしょうか。
これから歌舞伎を見に行く方も、いつかはいってみたいと思う方にとって歌舞伎ならではの専門用語は、ナゾも多いもの。
今回はビギナーには難しい「見得を切る」の意味についてご紹介します。
見得を切るとは?
歌舞伎を見に行ったとき「役者が一定の動作をして、数秒間そのままフリーズしていること」がよく見られることがあります。
この動きは感情の高ぶったときによく使われていて、舞台の中盤から後半にかけて使用されることが多くなっています。
今風の言葉に直すのなら「決めポーズ」や「決め顔」をしているシーンです。
見得を切る動作を入れることによって、シンプルな舞台にメリハリが付き、役者の表情がより豊かに見えるメリットがあります。
「決めポーズ」はそれぞれの役者さんごとに少しずつ変わっているため、じっと見ているだけでワクワク感も倍増。役者さんにとっても個性がより発揮できるシーンです。
「決めポーズ」をするときには、目玉を大きく見開く方もいます。
動きをいったん止めて、動から静にスイッチが切り替わるため、観客の皆さんの視線も釘づけになります。
こういった見得を切る動きは、西洋などの劇には見られない演出。歌舞伎ファンにとってもプレミアもののシーンなのです。
由来は?
見得を切る…という言葉は、そもそも「歌舞伎ならではの用語」です。
見得を切った役者に一時的にスポットライトが当たるため、長い演目の中でもかなりの重要度の高いシーンになります。
似た言葉として「見栄を切る」というワードがあります。
これは「見得を切る」の歌舞伎ならではの言葉が、江戸時代の半ばころ庶民の間に広まったもの。
歌舞伎役者の一時的な決めポーズから「実物よりカッコつけるもの、虚栄するもの」と飛躍して言葉が定着したようです。
現代の私たちが見栄を切るというと、たしかに自信たっぷりな様子・自分の力を必要以上にアピールする様子という意味で使われます。
たとえば昨晩飲み会の席で部下の手前、見栄を切って奢ってやった・難しい仕事を見栄を切って、全部引き受けることにした…などと使われます。
実際はそれほど力がないのに、自分を高く見せようと盛り立てるさまを表しています。
良い意味か悪い意味かで使われると、やはりマイナスの意味として使われることが多いようです。
語源となった「見得を切る」とはやや違う印象の言葉が独り歩きしているようです。
どんな意味がある?
◇観客の興味を惹きつける
歌舞伎で見得を切るシーンのとき、後ろで木のトントントンという音が聞こえます。
これはたまたまリズムが合っているのではなく、そういう演出として演目が盛り込まれているのです。
木の拍子音が入ることによって、臨場感がよりアップします。
サスペンス映画でジャジャジャーンとサントラが入るのと同じように、ドキドキするシーンでは音楽が入るとより観客の興味も惹かれます。
さっきまで慌ただしく動いていた役者の方が、舞台の中央にたたずみ静かに見得を切っているシーンは、たしかに注目度も大です。
写真を撮りたくなるくらいの迫力あるシーンが見えます。
◇主人公に重ね合わせる
見得のシーンには、役者さんの感情の高ぶりが集約されています。
普段どんなに喜怒哀楽が激しい方であっても、あのように怒りや戸惑いを如実に表せる人は少ないのではないでしょうか。
非日常的な「見得を切る」シーンを見ることによって、私たちは日ごろ積もっていたうっぷんを静かに発散させることができます。
つまり演じている役者さんと自分自身の姿を重ね合わせることによって、気持ちを開放させることもできるのです。
歌舞伎を見たあとに、何だか気持ちがスッキリした…。そう感じたことはありませんか。
そう思えたのは、あなたが注意深く歌舞伎を見ている証拠です。
◇クライマックスをアピール
見得を切るシーンは舞台の後半戦に持ってこられる事が多くなっています。
つまり見得を切るシーンが出て来たら「そろそろ舞台が終わりますよ」という合図なのです。
歌舞伎を初めて見る方にとって、こんなプチサインを知っておくと、演出の流れをよりリアルに体感できます。
事前に終わりを告げられているため、見ているこちらも気持ちに区切りがつくようになります。
行燈がおりたとき惜しみなく拍手を送ることができるのも、見得を切る…に代表されるように役者のひとつひとつの動作が完璧であるからです。
まとめ
歌舞伎をもっと楽しんで観るための「見得を切る」のワードについて解説しました。
だんまり・おはこ・大喜利・おおづめ・正念場など、実は見得を切る以外にも沢山の歌舞伎用語が日常生活のあちこちに隠れています。
普段何気なく使っている言葉ひとつひとつにも意味があるのだと気づいたとき、歌舞伎の世界がバラエティ豊かに広がっていきます。
見得を切るの語源や由来を知って、さらに楽しいライフスタイルに近づいていってください。