歌舞伎とは読んで字のごとく、歌と演舞と演技で構成された日本の伝統芸能です。
演舞と演技は、演者である役者が観客の前で実演しますが、役者が歌うことはありません。
では、いったい誰が歌っているのでしょうか?
それは、舞台袖にいて歌をうたう「歌謡い」と呼ばれる人です。
さらに、歌舞伎は演目によって使用される音楽の種類も変わってきます。
歌舞伎はまず、語り物と歌物の2種類で大まかに分けることができますが、この語り物はナレーションのように説明し、話の状況などを節をつけて語るのが特徴です。
一方、歌物にはメロディーがあり、演舞の伴奏に使用されます。
では、今回はその歌舞伎の歌物で使用される楽器について、その特徴を具体的に見ていくことにしましょう。
歌舞伎の下座音楽とは?
歌舞伎で演奏される音楽は、「下座音楽」と呼ばれています。
この下座音楽とは、歌舞伎の効果音楽のことを指し、舞台下手の黒御簾(くろみす)の中で演奏されます。
黒御簾は歌舞伎舞台の下手に作られた場所で、「下座」とも呼びますが、舞台と黒御簾の間にはすだれがかかっていて、客席からは中が見えないつくりになっています。
ですので、薄暗い灯りの中で歌舞伎の音楽や効果音を演奏しています。
この黒御簾で演奏している人たちのことを「囃子連中」などと呼んでいます。
鳴り物には笛や太鼓、鉦などがありますが、鉦を並べた楽器を「オルゴール」、ラチエットを「時計」と呼ぶなど、下座では各楽器に歌舞伎独自の珍しい名前が付いています。
それでは楽器を一つずつ見ていきましょう。
下座音楽で使われる楽器とは?
三味線
三味線には種類があり、音楽の種類によって使い分けがされています。
その使い分けとは大きく分けて3つあり、「太棹(ふとざお)」「中棹(ちゅうざお)」「細棹(ほそざお)」があります。
太い三味線に比べ、細い三味線である「細棹」が高音が出ますが、これは長唄に使われます。
そして、低音が特徴の「太棹」は、語り物で使用され、重厚な音で場内を演出していきます。
なお、中間の音を奏でる「中棹」は、常磐津に使用されます。
前述の通り、歌舞伎は語り物と歌物で構成されていますが、語り物の場合は、三味線と太夫と呼ばれる語り部の組み合わせとなり、歌物の場合は、歌と三味線にお囃子が加わります。
このお囃子とは、小鼓、大鼓、太鼓、笛の組み合わせになりますが、こちらもそれぞれ見ていくことにしましょう。
小鼓
小鼓はまるで砂時計のような形をした楽器で、両面に革が張られていて、緒で外側を強く張っています。
演奏の仕方としては、左手で緒を持って、右手で革の部分を打ちながら音を出します。
その際、緒を締めたり緩めたりして音色を調節していきます。
大鼓
大鼓も小鼓と同じような形状ですが、小鼓に比べ、一回りほど大きいのが特徴です。
そして、小鼓よりも高い音色が出ることもポイントです。
太鼓
下座音楽で使用される太鼓では、「締太鼓」が一般的です。
この締太鼓は、古い伝統的な呼び名として「猿楽太鼓」とも呼びます。
猿楽というのは平安時代から室町時代にかけての伝統芸能で、手品や曲芸、唄、踊りなどが行なわれ、そこで使われていた太鼓こそが、この「締太鼓」です。
小鼓や大鼓は手を使って音を出しますが、この締太鼓はバチを使って演奏するのが特徴です。
笛
笛には「篠笛」や「能管」があります。篠笛は祭囃子でも使用される庶民の横笛ですが、能管は笛の内部に特殊な仕掛けが施されており、音程が明確でないため、効果音として使用されるのが一般的です。
例えば、幽霊が登場するときに「ヒュー」と鳴る効果音がこの能管です。
では、その他、下座音楽でよく使われている楽器を見ていくことにしましょう。
オルゴール
L字形の木製の台に、鉦を3個から6個ほど使い、取り付けられた楽器になっています。
舞台では蝶が飛ぶシーンや、虫の音などに使われています。
駅路
駅路はドーナツ状の鉄鈴を3個ほど金属製の半円輪に通し、輪の両側を木製の柄に固定した楽器で、馬に乗って旅をするシーンなどで使用されます。
チャッパ
チャッパは東洋のシンバルで、大きさが12cm~20cmほどあります。
日本では歌舞伎の他、郷土芸能などで使用されています。
時計
木製の歯車で「カリカリ」「コリコリ」といった効果音を奏でるパーカッションです。
ラチエットのようですが、歌舞伎では「時計」と呼んでいます。
雨団扇(あめうちわ)
うちわにビーズのようなものを糸で取り付けており、雨の効果音を出しています。
四つ竹
貧乏な長屋話などに使われる楽器で、太い四つの竹でできています。
まとめ
いかがでしたでしょうか。歌舞伎で使われる楽器がおわかりいただけたでしょうか?
歌舞伎は話がわかりづらいからと敬遠される方もいらっしゃいますが、翻訳をイヤホンで聞きながら楽しむことも可能です。
また、こうした使用される楽器のことも知っておくと、どの場面でどういった楽器が使われているかの興味も増し、これまで観覧したことがある方でも、より一層楽しめるでしょう。ぜひ、こうした知識を活かして歌舞伎をご覧ください。